シリコーンハイドロゲルとは?コンタクトを素材で選ぶという視点
レンズ素材の基礎知識
「素材:シリコーンハイドロゲル」 「stenfilcon A」
コンタクトの箱や通販ページに書かれた素材の欄。呪文のような横文字を見て、「そもそも何が違うの?」と素通りしてきた方は多いはずです。価格や度数は気にしても、素材まで見て選ぶ人はそう多くありません。
この記事では、シリコーンハイドロゲルとは何か、従来の素材と何が違うのかを、専門用語をかみ砕いて整理します。読み終えるころには、素材の欄が「意味のある選択軸のひとつ」として読めるようになります。
先に結論をお伝えすると、シリコーンハイドロゲルは酸素を通しやすい素材として広まったレンズ素材です。ただし「だから目にいい」と単純に言い切れるものではなく、合うかどうかは目の状態や使い方次第。素材は数ある選択軸のひとつで、最終的な判断は眼科で、というのがこの記事の立場です。
結論:シリコーンハイドロゲルは「酸素をよく通す」レンズ素材
シリコーンハイドロゲルは、その名のとおりシリコーンと、水を含む「ハイドロゲル」を組み合わせたレンズ素材です。2000年代以降に広まり、今では多くのソフトコンタクトに使われています。
最大の物性上の特徴は、酸素を通しやすいこと。角膜(目の表面)は血管がなく、空気中の酸素を直接取り込んで呼吸しています。コンタクトはその角膜の上に乗るため、レンズがどれだけ酸素を通すかは、素材を語るうえで欠かせない指標です。
ここで大事なのは、酸素を通しやすいという「物性」と、それが「目にとって良い/悪い」という評価は別だという点です。物性は事実として整理できますが、装用感や目への影響は人によって差があり、そこは眼科の領域になります。この記事では前者の「物性」を中心に見ていきます。
シリコーンハイドロゲルとは?従来のハイドロゲルとの違い
従来のハイドロゲル:「水」を通じて酸素を運んでいた
昔からあるソフトレンズの素材が「ハイドロゲル」です。水をたっぷり含んだやわらかい素材で、装着感がよいのが特徴でした。
この従来素材は、レンズに含まれた水分を通じて酸素を運ぶしくみでした。つまり「水をたくさん含むほど、酸素も通しやすい」という関係です。ここから、素材の性能を語るときに「含水率(がんすいりつ)=レンズに含まれる水分の割合」がひとつの目安になってきました。
ただし、この方式には限界がありました。酸素をもっと通したいなら含水率を上げるしかなく、含水率を上げすぎると乾きやすくなったり、レンズが変形しやすくなったりする面もあると言われます。
シリコーンを組み込むと:素材そのものが酸素を通す
そこで登場したのがシリコーンハイドロゲルです。シリコーンは、それ自体が酸素をよく通す性質を持っています。この性質を素材に組み込むことで、「水を増やさなくても酸素を通せる」ようになりました。
これがシリコーンハイドロゲルの核心です。従来素材が「水で酸素を運ぶ」のに対し、シリコーンハイドロゲルは「素材そのものが酸素を通す」。だから、含水率を無理に高くしなくても、高い酸素透過性を確保できるわけです。
酸素の通しやすさは、専門的にはDk値(酸素透過係数)や、レンズの厚みまで考慮したDk/t値(酸素透過率)という数値で表されます。シリコーンハイドロゲルは、この数値が従来素材より高い傾向にあるとされています。
「含水率が高い=目にやさしい」とは限らない
素材を知るうえで、最も誤解されやすいのがここです。含水率の数字だけを見て「水分が多いほど良さそう」と思いがちですが、シリコーンハイドロゲルの登場で、その見方は単純ではなくなりました。
実際、遠近両用コンタクトの主要4製品を並べると、含水率が高い製品がシリコーンハイドロゲルとは限らないことが分かります。
| 項目 | モイスト マルチフォーカル | マイデイ マルチフォーカル | メニコン プレミオ 遠近両用 | バイオフィニティ マルチフォーカル |
|---|---|---|---|---|
| 素材(分類) | etafilcon A(非シリコーン) | stenfilcon A(シリコーン) | シリコーンハイドロゲル | comfilcon A(シリコーン) |
| 含水率 | 58% | 54% | 40% | 48% |
| 装用期間 | 1day | 1day | 2week | 2week |
注目してほしいのは、含水率がいちばん高い(58%)のは、シリコーンではない素材の製品だという点です。逆に、含水率が40%と低めの製品がシリコーンハイドロゲルだったりします。
これは前章のしくみを思い出すと納得できます。シリコーンハイドロゲルは「水に頼らずに酸素を通す」ため、含水率が低めでも酸素透過性を保てるのです。つまり含水率の数字だけで酸素の通しやすさは判断できない、ということになります。
素材の違いは、物性としてどこに出る?
素材が違うと、いくつかの物性に差が出ます。ここでは「事実として言える物性」に絞って整理します。それぞれが装用感や目にどう影響するかは個人差が大きいため、断定は避け、判断は眼科にゆだねます。
酸素透過性(Dk/t)
シリコーンハイドロゲルは、酸素透過性を示すDk/t値が高い傾向にあるとされる素材です。これは「角膜に酸素が届きやすい物性を持つ」という事実の話です。
一方で、酸素透過性が高ければ誰にとってもベストとは言い切れません。装着時間の長さ、目の状態、ほかのレンズ特性との兼ね合いで、最適なレンズは変わります。「酸素透過性が高い=疲れにくい・負担が少ない」と単純に結びつけず、自分の目に合うかは眼科で確認するのが確実です。
含水率
含水率が高いほど、装着した瞬間のみずみずしさを感じやすいと言われます。ただし水分が多い分、環境によっては乾きを感じやすい面もあると指摘されることがあります。ここも一長一短で、良し悪しは一概に言えません。
素材のしなやかさ(弾性率)
シリコーンハイドロゲルは、従来のハイドロゲルに比べてやや張りのある(硬めの)素材と言われることがあります。近年は改良が進み、製品によって感触は大きく異なります。装用感は好みや慣れの影響も大きいため、実際の見え方・つけ心地は個人差が前提です。
素材名「◯◯filcon」の読み方
箱に書かれた「etafilcon A」「comfilcon A」といった名前は、素材につけられた**一般名(成分名)**です。語尾の「filcon(フィルコン)」はソフトレンズ素材を表す共通の呼び名で、その前の部分が素材ごとに違います。
ただし、名前だけを見てシリコーンハイドロゲルかどうかを見分けるのは簡単ではありません。成分名の並びから機械的に判別できるものではなく、確実なのはメーカー公式の素材表記や製品情報を確認することです。通販ページやパッケージの「素材」欄に「シリコーンハイドロゲル」と明記されているかを見るのが分かりやすい方法です。
じゃあ、素材でレンズを選ぶべき?
素材は、レンズを選ぶうえで知っておくと役立つ選択軸のひとつです。ただし、それだけで決めるものではありません。
コンタクトは、度数・加入度数(老眼の補正量)・ベースカーブ・装用期間・光学設計など、複数の要素の組み合わせで自分に合うかが決まります。素材はそのうちの一要素にすぎません。「シリコーンハイドロゲルだから安心」と素材だけで飛びつくのではなく、眼科での検査で、自分の目に合う組み合わせを確かめるのが前提になります。
とはいえ、素材の意味が分かっていると、眼科や販売ページでの説明がぐっと理解しやすくなります。「この製品はシリコーンハイドロゲルで酸素透過性が高めなんだな」と物性を読めるだけで、選択の納得感は変わってきます。
素材ごとに製品を見てみたい人へ
「この素材の製品を、もう少し詳しく知りたい」という方向けに、素材の違う代表的な4製品の個別レビューを用意しています。素材・含水率・加入度数・価格まで、製品ごとに整理しています。
- 非シリコーン素材(etafilcon A)で含水率高めのタイプ → ワンデーアキュビューモイスト マルチフォーカル レビュー
- 1dayのシリコーンハイドロゲル(stenfilcon A) → マイデイ マルチフォーカル レビュー
- 2weekのシリコーンハイドロゲル(国産メニコン) → 2WEEKメニコン プレミオ 遠近両用レビュー
- 2weekのシリコーンハイドロゲル(comfilcon A・加入度数4段階) → バイオフィニティ マルチフォーカル レビュー
素材の特徴を頭に入れたうえで各レビューを読むと、「なぜこの製品はこの含水率なのか」が腑に落ちるはずです。
よくある質問
シリコーンハイドロゲルとは何ですか?
シリコーンと、水を含むハイドロゲルを組み合わせたコンタクトレンズの素材です。シリコーン自体が酸素をよく通す性質を持つため、素材そのものが酸素を通しやすいのが特徴とされています。2000年代以降に広まり、現在は多くのソフトレンズに使われています。
シリコーンハイドロゲルは目に良いのですか?
「酸素を通しやすい」という物性は事実として整理できますが、それが目の健康や装用感にどう影響するかには個人差があります。装着時間や目の状態によって合うレンズは変わるため、素材だけで良し悪しを判断せず、眼科で自分の目に合うかを確認してください。
含水率が高いレンズのほうが酸素をよく通しますか?
従来のハイドロゲルは水分を通じて酸素を運ぶため、その傾向がありました。ただしシリコーンハイドロゲルは水に頼らず素材そのものが酸素を通すため、含水率が低めでも酸素透過性を保てます。含水率の数字だけで酸素の通しやすさは判断できません。
自分のコンタクトがシリコーンハイドロゲルか、どう確認できますか?
成分名(etafilcon Aなど)だけを見て判別するのは簡単ではありません。メーカー公式の製品情報や、通販ページ・パッケージの「素材」欄に「シリコーンハイドロゲル」と記載されているかを確認するのが確実です。分からない場合は眼科や販売店で尋ねてください。
素材だけでレンズを選んでよいですか?
素材は選択軸のひとつですが、それだけで決めるものではありません。度数・加入度数・ベースカーブ・装用期間・光学設計など複数の要素の組み合わせで、自分に合うかが決まります。必ず眼科で検査を受け、医師の指示に従って選んでください。
まとめ:素材を知ると、レンズ選びの解像度が上がる
シリコーンハイドロゲルは、素材そのものが酸素を通しやすいという物性を持つレンズ素材です。素材の意味が分かると、これまで素通りしていた「素材」欄が、意味のある情報として読めるようになります。
- シリコーンハイドロゲルは酸素を通しやすい物性を持つ素材(2000年代以降に普及)
- 従来素材は「水で酸素を運ぶ」、シリコーンハイドロゲルは「素材そのものが酸素を通す」
- 含水率が高い=酸素をよく通す、ではない(数字だけで判断しない)
- 物性は事実として整理できるが、目に合うかは個人差が大きく、眼科での確認が前提
- 素材は選択軸の一要素。度数・加入度数などと合わせて総合的に選ぶ
素材の知識は、あくまで「選ぶときの土台」です。実際にどの製品が自分に合うかは、素材・度数・使い方を合わせて考える必要があります。次は、素材も含めた選び方の全体像を確認してみてください。